日 時 | 2020年09月07日(月) 13:00 |
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講演者 | 藤原佐知子博士 |
講演者所属 | 広島大学大学院医系科学研究科 |
場 所 | Online (Zoom) |
お問い合わせ先 |
古瀬幹夫
生理学研究所細胞構造研究部門 furuse@nips.ac.jp TEL: 0564-59-5277 |
要旨 |
細胞内外の力学的環境は、細胞や組織の生理機能を制御する重要な因子である。力学的刺激は主に細胞の接着部位で受容され、化学的シグナルに変換された結果、アクチンや中間径フィラメントなどの細胞骨格の再構築が促される(メカノトランスダクション)。ケラチンは上皮細胞の主要な中間径フィラメントであり、細胞内に密なネットワークを形成し細胞に力学的な強度を与えると同時に、デスモソームやヘミデスモソームに繋留され細胞間接着や細胞–基質間接着の安定性に貢献する。単純型表皮水疱症(Epidermal Bullosa Simplex, EBS)は日常生活で加わる程度の力で皮膚に水疱や潰瘍が生じる難病で、表皮基底層のケラチノサイトにおけるケラチンの変異が主要な病因として知られるが、ケラチンの異常と病態を繋ぐ分子機構はほとんど不明である。そこで本研究では、野生型ケラチンを発現するケラチノサイトとケラチンに変異を持ち異常な繊維構造を呈するEBSケラチノサイトを比較し、メカノトランスダクションにおける正常なケラチンネットワークの関与について検証した。その結果、EBSケラチノサイトでは細胞牽引力の低下および接着斑の形成不全と局在異常が見られ、加えて基質の硬さ依存的な接着や方向性をもった集団移動が阻害されていた。またその分子機構として、EBSケラチノサイトでは接着斑形成促進に働くSrc-FAK経路の活性が低いこと、さらに細胞骨格再構築で重要なRhoAの活性も低下しており、Rho活性化剤処理によって基質への接着が回復することが分かった。これらの結果から、表皮ケラチノサイト において、ケラチンはRhoシグナルを介してメカノトランスダクションを制御し、細胞–基質間接着や協調的な細胞運動に寄与することが示唆された。EBSにおける皮膚基底層の接着異常や創傷治癒の遅延について、新たな側面からの理解につながることが期待される。 |