要旨 |
脳の発達期、神経回路は外的環境の変化に応じて再編される。これまで私たちは、この可塑性を担うメカニズムを探求し、視床皮質軸索の軸索分岐が神経活動によって促進されること、それを担う分子機構の一つとして神経活動依存的に発現するNetrin-4やBDNFが軸索分岐に対して促進的に作用することを明らかにした。次なる興味深い問題として、神経活動がどのようにして遺伝子発現をコントロールするのか、高度に発達したヒト脳において特徴的な要素があるのかと言った課題が挙げられる。これらの問題に取組むために、ヒトES/iPS細胞由来の大脳皮質ニューロンにおいて転写調節因子CREBの時空間的動態を1分子イメージング法により解析している。その結果、CREBは神経活動に依存して、cofactorと共局在しながら特定のゲノム部位に繰り返し結合することにより、一連の遺伝子発現を制御する可能性が浮かび上がってきた。また、可塑性の別の側面として、脳損傷に伴う神経回路のリモデリングが挙げられる。その過程において新たな軸索成長、すなわち神経発芽(neural sprouting)は重要なメカニズムである。この分子機構を明らかにするために、大脳半球除去によって生ずる対側性の皮質中脳投射をモデル系として研究を行い、脱神経支配された中脳でグリア細胞由来因子が重要な役割を果たすことがわかってきた。本セミナーでは、これらの結果について報告し、可塑性を担う分子機構を総括したい。
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