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2022年09月13日

ドーパミンによる連合記憶の形成メカニズムと、そのアルツハイマー病における破綻

日 時 2022年09月13日(火) 17:00
講演者 五十嵐 啓
講演者所属 カリフォルニア大学アーバイン校医学部 神経・解剖学科 准教授
場 所 オンサイトもしくはハイブリッドの予定
お問い合わせ先 揚妻 正和(生体恒常性発達研究部門) age@nips.ac.jp
要旨 報酬信号であるドーパミンはこれまでの多くの研究から、線条体において非常に強い学習制御機能を担うことが明らかになっています。一方で、海馬・嗅内皮質を含む記憶回路において、ドーパミンがどのような役割を果たすのかは、ほとんど明らかになっていませんでした。私たちの研究室では最近、嗅内皮質のうち、外側嗅内皮質(LEC)の海馬に投射する第2層の神経細胞が、匂い・水報酬の連合学習において必須であり、報酬の有無を分別する神経活動を学習中に可塑的に形成することを見出しました。さらに、この第2層神経細胞の可塑的な変化は、腹側被蓋野からのドーパミン入力によって制御されていることを、光遺伝学とフォトメトリー法によって明らかにしました (Lee et al., Nature, 2021)。これらの結果は、外側嗅内皮質が非空間的なタスクルールの学習に関与していること、ドーパミンが記憶領域の入り口である嗅内皮質において記憶形成を制御する強い機能を持つことを初めて明らかにしたものです。

後半では、健常動物で見出した記憶形成の回路機能が、アルツハイマー病モデルマウスにおいてどのように破綻していくのかについて、内側嗅内皮質からこれまで得られた知見と (Jun et al., Neuron 2020)、外側嗅内皮質から最近得られたデータをもとに議論いたします。

Reference:
Lee JY, Jun H, Soma S, Nakazono T, Shiraiwa K, Dasgupta A, Nakagawa T, Xie JL, Chavez J, Romo R, Yungblut Y, Hagihara M, Murata K, and Igarashi KM* (2021)
Dopamine facilitates associative memory encoding in the entorhinal cortex
Nature, 598:321-326  (https://www.nature.com/articles/s41586-021-03948-8)

Jun H, Bramian A, Soma S, Saito T, Saido TC, Igarashi KM* (2020)
Disrupted Place Cell Remapping and Impaired Grid Cells in a Knockin Model of Alzheimer's Disease
Neuron, 107:1095-1112 (https://doi.org/10.1016/j.neuron.2020.06.023)