日 時 |
2024年01月19日(金)
16:00
より 17:00 まで
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講演者 |
田原 優 先生
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講演者所属 |
広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授
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場 所 |
山手キャンパス 3号館2階大会議室 (ハイブリッド開催)
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お問い合わせ先 |
榎木亮介(バイオフォトニクス研究部門)
enoki@nips.ac.jp
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要旨 |
これまでの栄養学に「いつ?」というタイミングの要素を追加したのが、時間栄養学である。時間栄養学は、概日時計(体内時計)研究がベースとなる。時計遺伝子変異マウスは、β細胞の数が少なく、インスリン分泌能も低く、高脂肪食摂取では肥満を呈する。一方で、食による末梢臓器の時計調節にはインスリン経路がメインに働く。また、体内時計の制御により、食後血糖は午前中よりも夕方に高くなりやすいことから、夕食時に注意が必要になる。夕食時の血糖をコントロールする方法として、朝食、昼食のタイミング、量、さらには間食によるセカンドミール効果を上手く利用することが効果的である。また、糖の吸収を抑える機能性食品成分も朝よりも夕食時の方が、効果が見えやすい。さらに最近の時間栄養学研究からは、朝食時のタンパク質摂取と骨格筋量、握力との関連も見えてきた。日本人の平均的なタンパク質摂取量は朝・昼・夕食=2:3:4の割合であり、朝食時のタンパク質摂取量は筋合成を最大限にできておらず、夕食時はタンパク質を摂りすぎている。よって、普段の食習慣を少し変える、つまり食べるタイミングを変えるだけで、より健康を維持できるというのが時間栄養学である。一方で、テーラーメイド医療に習い、プレシジョン栄養学や精密栄養学という言葉が使われるようになってきた。超高齢化社会、医療費高騰の対策として、予防医学や健康科学の重要性が再認識され、その中で日常行動としての食・運動・睡眠をいかにマネジメントするかが重要な要素である。ではプレシジョン栄養学は、どうすれば完成するのだろうか。昨今のAI/IoTデバイス、アプリによる生体データの見える化は、人々の行動変容をもたらす大革新であった。認知行動療法アプリも功を奏した。一方で、健康アプリからの生活提案は、どれほど人の行動を変えただろうか。「規則正しくしましょう、朝ごはんを食べましょう、夜は電気を暗くしてベッドでスマホを見るのをやめましょう」といったありきたりなコメントは、消費者にとってほとんど効果的ではなかっただろう。私たちは、AI食事管理アプリ「あすけん」を用いて時間栄養学研究を進めてきた。アプリ利用者のデータから、これまでの食事調査方法では得られなかった膨大な長期間の食事データを得ることができた。これまで着目されてこなかった朝・昼・夕・間食に着目して、概日時計の個人差であるクロノタイプに関わる食べ方、ダイエットのための時間栄養学的食べ方、血圧と関連する食べ方などを明らかにしてきた。アプリ内に時間栄養学の要素を組み込むフィードバックを追加することもできた。一方で研究として、健康アプリから得られる情報を使う際の難しさも見えてきた。本講演では、このようなプレシジョン栄養学のツールを用いた研究結果、研究手法、そして今後向かうべき方向性について議論する場になればと思う。
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