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セミナー詳細

2024年06月10日

胚発生を再現もしくは利用した多能性幹細胞からのモノ作り -生殖細胞から臓器まで-

日 時 2024年06月10日(月) 11:15 より 12:15 まで
講演者 小林 俊寛 先生
講演者所属 東京大学医科学研究所
場 所 生理学研究所 1F大会議室/Zoom
お問い合わせ先 吉村由美子 (yumikoy@nips.ac.jp)
要旨  多能性幹細胞 (ES 細胞, iPS 細胞など) は無限の増殖能と生体を構成するあらゆる細胞になれる多分化能を兼ね備えた培養細胞で、目的細胞を大量に作り出せるという特徴から創薬や再生医療に利用されつつある。さらにマウス・ラットの多能性幹細胞は着床前の初期胚に移植すると胚発生に沿って全身の細胞に分化できるキメラ形成能をもち、胚体を作れない 4 倍体胚への移植では完全な個体に成長することもできる。このようにひとたび最適な環境に置かれると目的の細胞はおろか個体にもなり得る能力をもつ多能性幹細胞に魅せられて、我々はこれを用いた研究を進めてきた。

  その一つは胚発生の過程を試験管内で “再現する” ことで実現する生殖細胞の作製である。次世代に遺伝情報を伝える精子・卵子といった生殖細胞は、胚発生の初期に多能性細胞から生じる始原生殖細胞を源として段階的に作られる。我々は最近、マウス以外では世界初となるラットにおいて、この発生過程の一部を再現し、多能性幹細胞から機能的な始原生殖細胞を分化誘導できる培養系を開発することに成功した (Oikawa et al., Science 2022, Iwatsuki et al., Cell Rep Methods 2023)。加えてこれまでにウサギ、ブタ、ヒトの多能性幹細胞からも始原生殖細胞を作る研究を進めており、それらを用いた解析から生殖細胞の運命決定機構における種間の保存性と違いを浮き彫りにしている (Kobayashi et al., Cell Rep 2021, Kobayashi et al., Nature 2017)。

  一方、多能性幹細胞から生殖細胞のように単一細胞レベルで機能する細胞を作るのに対し、移植医療に利用できるような複雑な臓器を試験管内で作り出すのは困難である。そこで我々は多能性幹細胞のもつキメラ形成能により胚発生の過程を “利用する” ことで臓器を作り出す「胚盤胞補完法」を開発した。実際に本法を用いてマウスとラットという異なる二種類の動物間で、膵臓、腎臓、生殖細胞をお互いの体内に作製することに成功しており (Kobayashi et al., Cell 2010, Kobayashi et al., Nat Commun 2019 他)、多能性幹細胞からの臓器再生が実現できる可能性を示してきた。

  本セミナーでは以上 2つ話題を中心に、これまでの研究と今後の展望を議論したい。