日 時 | 2025年06月17日(火) 16:00 より 16:45 まで |
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講演者 | 谷隅 勇太 |
講演者所属 | 生理学研究所 |
場 所 | Zoom オンライン |
お問い合わせ先 | 和氣弘明(研究連携センター) wake.hiroaki.r9@f.mail.nagoya-u.ac.jp |
要旨 |
動物の柔軟な知覚学習は、脳細胞が時空間的に秩序立てて活動することで支えられている。しかし、ミリ秒単位の神経時系列変化と学習に伴う行動変化の因果関係を明らかにするには、計測と操作を両立した高度な実験システムが不可欠である。 演者はまず、博士一貫課程において、感覚学習と“こころ”の関係を神経回路の時系列動態から解明することを目指し、ラットやマウスに匂いを手がかりとした課題を遂行させながら、嗅覚皮質の未踏領域におけるマルチユニット電気生理記録を行ってきた。その結果、匂い刺激への応答のみならず、行動選択や報酬の予期といった情報も嗅皮質に動的に地図表象されることを明らかにし、感覚入力が文脈に応じて柔軟に読み替えられる神経基盤の存在を示唆した。 学位取得後は、生理学研究所においてホログラフィック顕微鏡と行動課題系を初めて統合し、新たな研究拠点を自ら構築した。行動中のマウス脳を2光子イメージング・操作できる体制を整備する中で、動物の心的状態を反映すると考えられるアストロサイトのカルシウム活動解析に取り組んだ。その結果、感覚刺激と報酬の連合学習課題において、アストロサイト活動がマウスの学習度に応じて変動するとともに、神経細胞群の活動と時系列的に連動する現象を発見した。加えて、オプトジェネティクスと2光子ホログラフィック刺激系を組み合わせる条件検討を行い、学習過程における特定細胞群の時系列活性化を実現し、知覚・学習に関わる最小限の神経要素の探求に取り組んだ。 現在は、学習に関与する神経動態の抽出と、ホログラフィック顕微鏡を駆使した他個体脳への情報転送という挑戦に取り組んでおり、こうしたアプローチや回路解析を精神・神経疾患モデルマウスにも応用している。今後は、これまでの知見と技術を基盤に、精神・神経疾患の理解や回路操作に基づく介入法の開発、共同研究の推進や育成にもつなげていく考えである。 本発表では、感覚神経回路を起点とした以上の研究軌跡について、ご報告させて頂きます。 |