Research

研究活動

セミナー詳細

2026年01月29日

多階層・並列運動回路における運動制御戦略の解明/ Elucidating motor control strategies in multilayered, parallel motor

日 時 2026年01月29日(木) 16:00 より 17:00 まで
講演者 梅田達也 教授
講演者所属 山梨大学大学院総合研究部医学域
場 所 生理学研究所 1Fセミナー室A/B
お問い合わせ先 二宮太平(認知行動発達・講師)ninomiya@nips.ac.jp
要旨  脳内の神経回路は、大脳皮質・皮質下構造・脊髄・末梢感覚系といった複数のレベルが、多階層かつ入れ子状に結合した並列分散システムとして構成されている。このようなアーキテクチャは運動系に限らず多くの神経機能に共通して見られるが、各階層や並列経路がどのような原理で協調的に運用されているのかは、いまだ十分に理解されていない。
 本研究では、その具体例として随意運動と脊髄反射の協調メカニズムに着目し、サルが腕を伸ばしてレバー操作を行う課題中に、一次運動野の皮質活動、末梢感覚受容器の活動、および複数筋の筋電図を同時記録する手法を開発した。得られたデータに対して脳情報解読と因果的介入実験を組み合わせて解析した結果、一次運動野は皮質脊髄路を介して筋を直接駆動するだけでなく、末梢感覚受容器を経由して脊髄反射回路を通り再び筋へ戻ってくる経路の寄与まで「見越した」運動指令を生成していることが示された。さらに、感覚入力を遮断して脊髄反射を機能不全にすると、一次運動野活動のうち反射経路に対応する成分が筋活動を生み出せなくなり、その結果として運動出力が低下することが明らかになった。
 これらの結果は、脳が多階層・入れ子構造をなす神経回路の一部として脊髄反射を予測的に組み込み、「未来の反射」を利用することで効率的かつ正確な運動制御を実現していることを示している。
 本発表では、この予測的反射制御を、多階層・並列神経回路が協調的に運用される一般原理の一例として位置づけるとともに、運動機能障害の理解への波及可能性についても議論する。