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細胞容積調節におけるABCF2とα-アクチニン-4の分子間相互作用の役割

研究報告 2012年1月24日

内容

硬い細胞壁を持たない動物細胞の容積は、刻々と変化する細胞外及び細胞内の浸透圧の影響を受けて容易に変化する。しかし、動物細胞には増大または減少したその容積を元に戻し、常に一定に保つ能力があり、これは生命を維持する上で必要不可欠な機能である。例えば、細胞外の浸透圧が低下したり細胞内の浸透圧が増大すると細胞外から水が入り、細胞の容積は一旦膨張する。しかし動物細胞は、この状態から細胞内の余分な水と溶質を細胞外に排出し、元の容積に戻ろうとする。この過程は調節性容積減少(RVD)と呼ばれ、この時に排出される陰イオン(アニオン)の通り道である容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)の働きが、RVDの過程に必須であることがわかっている。しかし、VSORの分子は未同定であり、RVDを可能にさせる分子基盤には不明な点が多い。そこで私達は、RVDの過程に細胞骨格系が関与するというこれまでの報告をふまえて、アクチン結合蛋白質であるα-アクチニン-4(ACTN4)のRVDにおける関与を検討した。siRNAを用いてヒト上皮由来HEK293T細胞におけるACTN4の内在性発現をノックダウンすると、低浸透圧刺激後のRVDの過程は顕著に遅くなり、ACTN4を大量発現させるとそれは有意に促進された。これらの結果から低浸透圧刺激後の細胞容積調節にACTN4が関与していることが明らかになった。また、RVDが有意に亢進し始める時期に一致して細胞質内のACTN4が細胞膜へ移動することがわかった。ACTN4の結合蛋白質をプロテオミクス的に探索した結果、細胞質に局在するタイプのABC蛋白質であるABCF2と同定され、そのACTN4との結合が低浸透圧刺激で有意に促進されること、ABCF2のN末端領域がACTN4との結合に必要であることが明らかになった。また、低浸透圧刺激後のACTN4の細胞膜への移動と、ACTN4とABCF2の結合の促進には、正常なアクチン細胞骨格が必要であることもわかった。さらに、ABCF2を大量発現した細胞ではVSOR電流が大きく抑制されてRVDの過程が顕著に遅くなること、またその発現をノックダウンした細胞ではVSOR電流が顕著に大きくなって容積の回復が早くなることを明らかにした。以上の結果から、図で模式的に示すように、低浸透圧刺激後にABCF2とACTN4の結合能力が高まることによってVSORを負に制御する調節蛋白質であるABCF2はVSORから離れることとなり、RVDが亢進されることが考えられた。
本研究成果は、鈴鹿医療科学大学薬学部との「生理学研究所計画共同研究」によるものです。
図の説明: VSOR活性調節におけるABCF2とACTN4の役割の仮説モデル。(左)等浸透圧下においてABCF2はVSORに結合し、その活性を負に調節している。(右)低浸透圧刺激による細胞容積増加に伴って、ABCF2はVSORからはずれ、VSORは活性化される。VSORからはずれたABCF2は細胞膜下に存在するACTN4と結合する。低浸透圧刺激後速やかにABCF2は細胞質から細胞膜へと移動してくるが、これらも細胞膜下に存在するACTN4と結合する。細胞骨格の再編成を伴いつつ細胞膜の突出が形成されるにつれて、ACTN4は細胞質から細胞膜下へと移動してくる。この新しく細胞膜下へ移動してきたACTN4によってABCF2はVSORとの再結合を阻まれ、その結果VSOR活性化が持続することによって低浸透圧刺激後の細胞容積調節が加速する。

論文情報

Y. Ando-Akatsuka, T. Shimizu, T. Numata & Y. Okada (2012) Involvements of the ABC protein ABCF2 and α-actinin-4 in regulation of cell volume and anion channels in human epithelial cells. J. Cell. Physiol. (電子版 January 2012; doi: 10.1002/jcp.24050)

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