ご挨拶

2010年9月   伊佐 正 

日本神経科学学会について・・・・
Neuro2010が無事終了しました。過去最大規模の大会となったようです。プログラムも大変魅力的でしたし、若手がどんどん牽引していけるようになってきているなど、学会がとても元気なのはうれしいことです。しかし、もはや3日間ではスケジュールが過密すぎる感じです。来年から3日半、さらには4日間になるようですが、それが適当だと思います。
ここ数年、神経科学学会の運営に関して責任のある立場になって思うことですが、このように学会が巨大化、国際化(英語化も含む)、さらには学際化が急速に進展してきていることについて勿論会員の皆さんがそれぞれにお感じになることは多様だと思いますが、日本という国のアジアにおける地位が全般に揺らいできている今日、神経科学学会が、SFN, FENSと並ぶ世界の第3極の地位を確保しておくように努めることは最早避けては通れない道だと思っています。そこは是非ともご理解いただきたいと思います。最近SFNに行ってもFENSに行っても各国の神経科学会同士の連携を模索する動きが活発です。一方中国の伸びも急速です。この大きな流れにきちんと足場を確保しておくことが必要で、最早我々は内向きではおれないのです。
一方、日本の神経科学学会の最大の弱点は財務面です。今回の総会で会費をこれまでの9000円から値上げして1万円とすることを了承していただきました。実は多くの会員の方が今はご存知ないことかと思いますが、神経科学学会は学会誌Neuroscience Researchによって収益を挙げることはできていません。それは当初からElsevierにお願いして発行してもらったという経緯から、多くの権利をElsevierに抑えられたままだからです。また、冊子体の購読料を値上げすると皆さんが購入してくれないのではないか、という恐れがあって、本来なら2万1千円程度する冊子体の年間購読料を実は会員の皆さんに約1万9千円程度で買っていただいている、という状況です。そして神経科学学会としては200部の買取をElsevierと契約しています。つまり、200部を超えると売れれば売れるほど学会の赤字が増える構造になっているので、実際に多くの方に買ってくださいとは言えず、冊子体の購読数が204部という綱渡りをしているのです。発行当初ならいざ知らず、現在NSRのimpact factorは2.1台(2009年は2.4)と、決して悪くはありませんし、会員の多くの方がNSRに論文を発表された経験をお持ちだと思います。例えば日本神経回路学会では会員は全員Neural Networksを購入することになっており、それが学会の強力な収益源になっています。他にも多くの学会が同様な財務体制になっています。今後会員の皆さんが学会を支えているのだという意識をもう少し強くもっていただけるようにできればよいな、と思います。冊子体の価格をやはり若干でも収益が出るような価格にさせていただき、多く購入していただければできるほど学会の財務が安定する、という健全な方向に持っていき、できれば各研究室に一冊ずつNSRの冊子体を置いていただける、というような学会と会員の関係を築いていけるようになればよいなと思います。まあ、冊子体なんて古い、というムキもありますが、せめて「売れれば売れるだけ赤字」という状況はもう止めたい。勿論それに値するだけのメリットを会員の皆さんが学会に対して持っていただけるようにしないといけないのは当然のことですが・・・

最後になりますが、Oxford Univ PressからHandbook of Brain Microcircuits.という本が出ました。Gordon ShepherdとSten Grillnerによる編集で、様々な動物種の様々な中枢の局所回路について53個のChapterにまとめられている本でこの分野の現状を知るのに大変便利なようにそれぞれについてエッセンスがコンパクトにまとめられています。執筆陣は豪華でEG Jones, Markram, Svoboda, Georgopoulos, Sherman, McCormick, Somogyi, Buzaki, Llinasといった人たちとともに、上丘の章は金田君と私が担当させてもらいました。日本からは小脳を担当された伊藤正男先生と私たちだけ、ということで少し鼻が高いのですが、上丘は大変重要な脳部位で、今後益々注目されるに違いないという確信はあるものの、やはり研究者が多い脳の部位に比べてわかっていることがまだまだ限られているなあという気がします。もう少し研究者人口が増えればよいのですが・・・・

 


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 伊佐 正 教授 
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