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正常な顔認識に必要な脳内ネットワークを解明

プレスリリース 2015年3月12日

内容

 顔認知は言語認知と同様に、人間が社会生活を送る上で非常に重要な脳機能ですが、これまで十分には、そのメカニズムは解明されてきませんでした。
今回、自然科学研究機構生理学研究所の松吉大輔研究員(現所属:東京大学)、柿木隆介教授、定藤規弘教授らの研究グループは、顔を認識している時の人間の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)に用いて詳細に解明しました。
 人間は、顔が逆さまになっていると、それを正確に認知する事が大変困難になり、「倒立顔効果」として知られています。松吉研究員らは、正立顔と倒立顔を認知する時の脳活動の相違を比較しました。
  通常、顔認知機能は、他の物体認知機能とは独立して脳内に存在する事が知られています。しかし今回の研究で、正立顔の認知の場合には、物体認識に関わる脳 部位が抑制される一方、倒立顔ではこの抑制が行われておらず「顔か物体か分からない」状態になっていることが分かりました。つまり、顔認識に不要な部位を 抑制して、必要な部位だけを活動させるようにすることが、正常な顔認識にとって必要であることを世界で初めて明らかにしました。本研究結果は、米国科学誌 The Journal of Neuroscience誌(2015年3月11日号)に掲載されます。

  柿木隆介教授は「今回の研究で、顔処理を行う脳部位のみならず、従来は顔認識に本質的ではないと考えられてきた脳部位をどのようにコントロールするかが、 正常な顔認識に重要であることが分かりました。相貌失認などの顔認識に障害のある疾患では、この脳ネットワークがうまく働いていないことが要因となってい る可能性が考えられ、今後研究を進めて行きます。」と話しています。

 本研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム・課題D「社会能 力の神経基盤と発達過程の解明とその評価・計測技術の開発」(研究代表:定藤 規弘)、及び文部科学省・日本学術振興会科学研究費補助金、JST 戦略的創造研究推進事業 CRESTの「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」(研究総括:西田 豊明 京都大学 教授)における研究課題「潜在的インターパーソナル情報の解読と制御に基づくコミュニケーション環境の構築」(研究代表:柏野 牧夫 (株) 日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 部長/上席特別研究員)、大阪大学グローバルCOE「認知脳理解に基づく未来工学創成」の一環として行われました。

今回の発見

1.顔認知には直接関連のない脳部位を抑制しつつ、顔認知に特化した脳部位だけを活動させるようにすることが、正常な顔認識に必要であることを示しました。

2.相貌失認などの顔認識に障害のある疾患が、このような脳ネットワークがうまく働いていないことが要因となっている可能性があります。

図1 逆向きの顔の認識は難しい

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 ヒトは物の認識が非常に得意であり、明るさなどの見え方が変わっても、それがそれであると簡単に分かります。しかし、それは逆向きの顔には通用しません。例えば図1右側の顔画像(目と口に加工)は画像をひっくり返さない限り、この顔の奇妙さに気付く事は困難です。
本研究では、この現象が生じる脳内メカニズムを調べました。この現象を調べる事で、目に入る情報は全く同じなのに、うまく顔認識ができない理由を知ることができると考えました。


 
 

 

 

 

 図2 モデルに基づく脳内ネットワークの理解

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 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によりヒトの脳のどの場所が活動しているかを知ることができますが、「どこ」だけでは、脳全体としてどのように働いているかは分かりません。
そこで、我々の研究ではさらに脳での信号の流れをモデル化することで、脳が「どのように繋がっているか」その脳内ネットワークを調べました(図2)。

 

 

 

 

 

 

 

 図3 不要な部位を抑制しつつ、必要な部位だけを働かせることが正常な顔認識の鍵

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 ヒトの脳では、顔認識に関わる部位と、物体認識に関わる部位が別々の場所に分かれて存在しています。
研 究の結果、通常の向きの顔では物体認識に関わる脳部位が抑制を受けて「物ではなく顔とはっきり分かる」のに対し、逆向きの顔では抑制が行われていないため に「顔を物としても処理してしまう」曖昧な状態になっている可能性が示されました(図3左)。また、このような抑制の一方で、顔認識を担う複数の領域間の 協調(繋がり)が顔認識の成績と関連していることが明らかになりました(図3右)。すなわち、顔認識には不必要な部位を活動させないようにしつつ、顔認識 部位だけをうまく働かせることが、正常な顔認識にとって重要であることが分かりました。

この研究の社会的意義

脳部位間の抑制と協調が正常な顔認識の鍵となっているという本研究の知見は、相貌失認など正常な顔認識に困難を抱える疾患(全人口の約2%との推定)の原因解明に役立つ可能性があります。

論文情報

Dissociable cortical pathways for qualitative and quantitative mechanisms in the face inversion effect
D. MATSUYOSHI, T. MORITA, T. KOCHIYAMA, H.C. TANABE,
N. SADATO, and R. KAKIGI.
The Journal of Neuroscience.   2015年 3月11日掲載

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節研究部門
教授 柿木隆介 (カキギリュウスケ)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

 

 

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