News

お知らせ

天然の精油に含まれる揮発油が、セイヨウミツバチに寄生するVarroaダニのTRPA1チャネルを特異的に活性化することを発見
〜蜂群崩壊症候群解明への一助となるか〜

研究報告 2015年7月 3日

概要

 TRPA1チャネルは、様々な侵害刺激により活性化される受容体で、昆虫からヒトまで、幅広い生物種で保存されています。ヒトでは、ワサビの辛み成分である「アリルイソチオシアネート (AITC)」や、排気ガスに含まれる「アクロレイン」等といったからだに侵害刺激になる成分により活性化されます。一方、昆虫のTRPA1は、前述のAITCや防虫剤に用いられる樟脳(しょうのう:カンファー)で活性化されます。つまり昆虫がなぜ防虫剤である樟脳を入れたタンスに近づかなくなるのか、というと、侵害刺激を認識するTRPA1チャネルが樟脳で活性化されるためです。
 近年、養蜂家が保有する交配用・採蜜用ミツバチが短期間に大量に失踪する「蜂群崩壊症候群」が大きな問題となっています。原因には諸説あり、ウィルスや農薬などさまざまな説があげられていますが、この中のひとつに、ミツバチに寄生するダニの存在が原因であるとする説があります。今回中国 西交利物浦大学(Jiaotong-Liverpool University)の門脇辰彦博士と、生理学研究所の共同研究グループは、セイヨウミツバチに寄生するミツバチヘギイタダニ(Verroa destructor)のTRPA1遺伝子をクローニングし、その機能を詳細に調べました。
  その結果、VarroaダニのTRPA1は、他の生物と同じようにAITCで活性化されますが、新たに、天然に存在する月桂樹やローズマリー、アニス、マジョラムなどの精油に含まれるαテルピネオールによっても活性化されることがわかりました。αテルピネオールは、セイヨウミツバチのTRPAや、ショウジョウバエのTRPA1を活性化しませんでした。またAITCが作用するアミノ酸の変異体でも、VarroaダニTRPA1はαテルピネオールによって活性化したことから、VarroaダニのTRPA1は他とは違ったメカニズムで活性化するものと考えられます。さらに、ショウジョウバエにVarroaダニTRPA1を強制的に発現させたところ、αテルピネオールに対して忌避行動を行うようになりました。これらの結果から見えてくるのは、生物は進化の過程において、それぞれが独自にTRPA1の化学物質感受性を大きく変化させてきた、という事実です。

 今回の研究成果から、αテルピネオールは、植物由来で安全な上、セイヨウミツバチTRPAには作用しない、そして何より、セイヨウミツバチを死に至らしめる原因であるVarroaダニのTRPA1を活性化することが判明しました。この結果は、セイヨウミツバチに寄生するVarroaダニにターゲットを絞り、Verroaダニを特異的に、かつ安全に駆除することができる、画期的な駆除剤を作るための技術開発に大きく貢献する成果であると言えます。

論文情報

Guangda Peng, Makiko Kashio, Tomomi Morimoto, Tianbang Li, Jingting Zhu, Makoto Tominaga, Tastuhiko Kadowaki.
Plant-derived tick repellents activate the honey bee ectoparasitic TRPA1. Cell Reports

図 αテルピネオールとVarroaダニTRPA1、セイヨウミツバチTRPA

 VarroaダニTRPA1とセイヨウミツバチTRPAの双方を活性化させる化学物質はもちろんあります。しかしαテルピネオールは、VarroaダニTRPA1を活性化しますが、セイヨウミツバチTRPAを活性化しませんでした。つまり、αテルピネオールを投与することで、セイヨウミツバチ自体にに影響を与えることなく、寄生しているVarroaダニを寄せ付けないようにすることが可能になります。

20150701houkoku_tominaga_1.jpg

リリース元

生理学研究所 細胞生理研究部門
西交利物浦大学(中国)

関連部門

関連研究者