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TRPM7タンパクは、マウスの膀胱上皮の細胞間接合形成に寄与している

研究報告 2015年11月30日

概要

  間質性膀胱炎は平成27年7月から厚生労働省より難病指定を受けている疾患です。世界的にみて人口の0.5%が罹患していますが、病態メカニズムの解明が進んでいないため確立された根治療法はありません。適切な病態モデル動物が存在しないことが治療法解明に向けた研究の大きな制約となっていると考えられます。
  今回、生理学研究所・細胞生理研究部門・元特別共同利用研究員の渡邊成樹助教(現旭川医科大学・腎泌尿器外科)、富永真琴教授、旭川医科大学・腎泌尿器外科の柿崎秀宏教授および生理学研究所・形態情報解析室の宮崎直幸研究員、村田和義准教授との共同研究によって、TRPチャネルファミリーに属するTRPM7を膀胱上皮特異的にノックアウトしたマウスを作成して解析しました。まず、TRPM7が膀胱上皮の最表層を構成している被蓋細胞に高発現し、外からの酸刺激に応じた膜電流の生成に関与することを明らかにしました。また、TRPM7をノックアウトした自由行動下のマウスにおいて一回排尿量の減少が観察されたことから膀胱組織を詳細に観察しました。その結果、間質における炎症によるとみられる浮腫が観察されました。炎症性サイトカインの遺伝子発現もノックアウトマウス膀胱において有意に増加していました。さらに、電子顕微鏡を用いた解析によってノックアウトマウス被蓋細胞の細胞間隙(細胞と細胞の間)の開大が観察され、細胞間結合が未熟であることが考えられました。以上のことから、TRPM7は被蓋細胞間の細胞間結合の形成に重要な役割を果たしており、TRPM7がないと被蓋細胞間結合がうまく生成できないため尿中の侵害物質(アンモニア、尿素など)が膀胱の間質に流入してしまうことによって炎症が惹起され、一回排尿量の減少に代表されるような間質性膀胱炎様の症状を呈することが推察されます。
今後、被蓋細胞のバリア機能が外部環境の変化に応じてどのように成熟・維持されているのかを明らかにすることによって、間質性膀胱炎のより詳細な病態メカニズムを解明したいと考えています。また、このマウスは従来の間質性膀胱炎モデルとは異なり、膀胱上皮がよく保存されていることから、本疾患の優れたモデル動物としても病態メカニズムの解明に貢献できると考えられます。これらの研究によって間質性膀胱炎の根治療法の確立につながることが期待できます。

論文情報

Masaki Watanabe, Yoshiro Suzuki, Kunitoshi Uchida, Naoyuki Miyazaki, Kazuyoshi Murata, Seiji Matsumoto, Hidehiro Kakizaki, Makoto Tominaga
Trpm7 protein contributes to intercellular junction formation in mouse urothelium
J. Biol. Chem. jbc.M115.667899. First Published on October 26, 2015
doi: 10.1074/jbc.M115.667899

 

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図1.被蓋細胞間結合の電子顕微鏡による観察:コントロールマウス(ctl)と比べTRPM7KOマウス(KO)において有意に細胞間隙が開大していた。
黒矢頭:密着結合(tight junction)、
白矢頭:接着結合(adherens junction).  Bars = 50 nm. **p < 0.01, n = 12-15.
 

リリース元

生理学研究所
旭川医科大学

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