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脳の神経細胞に髄鞘が形成されるメカニズムの一端を解明
-特定の神経細胞に優先的に働きかけるグリア細胞を発見-

2016年10月19日 プレスリリース

内容

脳内には、情報の伝達にかかわる神経細胞の他に、さまざまな働きを持つ「グリア細胞用語説明1」という細胞が存在します。中でも「オリゴデンドロサイト用語説明2」というグリア細胞の一種が、神経細胞の軸索の周りに、髄鞘用語説明3という構造物を形成することがわかっていました。髄鞘は神経線維の周りを取り巻くことで、神経の伝導速度を速くすることができます。しかし、これまでオリゴデンドロサイトがどのような種類の神経細胞に対して髄鞘を形成するのか、その詳細は明らかになっていませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の池中一裕教授、南部篤教授、吉村由美子教授、小林憲太准教授、新分野創成センターの木森義隆助教、統計数理研究所の小山慎介准教授らの共同研究グループは、単一のオリゴデンドロサイトを可視化することに成功。オリゴデンドロサイトが特定の神経細胞に対して選択的に髄鞘を形成していることを明らかにしました。本研究結果は、米国科学雑誌のGLIAに掲載されます(日本時間2016年10月19日午後10時オンライン掲載)。

  神経細胞の髄鞘に異常が生じると、多発性硬化症用語説明4など、さまざまな疾患を引き起こすことが知られています。また、記憶や学習に神経細胞が重要な役割を持つことが知られていますが、近年、神経細胞に髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトも、学習を行う上で重要な役割を担っていることが分かってきました。しかしオリゴデンドロサイトは可視化することが難しく、ひとつひとつのオリゴデンドロサイトがどのようにして神経細胞に髄鞘を形成しているか、その詳細はこれまでよく分かっていませんでした。
  今回研究グループは、新規に開発されたウイルスベクター用語説明5をマウスの脳内に注入すると、ひとつひとつのオリゴデンドロサイトを明瞭に観察できることを発見しました。このウイルスベクターによって標識されたオリゴデンドロサイトと神経細胞の相互作用を詳細に解析した結果、一部のオリゴデンドロサイトは運動に関係する神経細胞や感覚刺激に関係する神経細胞など、特定の役割を持つ神経細胞を選別して優先的に髄鞘形成していることを明らかにしました。
 今回の研究結果から、オリゴデンドロサイトによる髄鞘形成には複雑かつ多くの要因が影響を与えていることが分かりました。今回研究グループが開発した研究手法は、多発性硬化症など、髄鞘形成に異常がある疾患の原因究明に役立つと考えられます。
  本研究は文部科学省の科学研究費補助金・新学術領域研究「グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態」(領域代表:池中一裕教授)及び「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」(領域代表:南部篤教授)による支援を受けて行われました。

今回の発見

  1. 単一のオリゴデンドロサイトを標識する新規の手法を開発しました。
  2. 一部のオリゴデンドロサイトは特定の種類の神経細胞を認識して、選択的に髄鞘形成することが分かりました。
  3. 今回の発見は、髄鞘異常に起因する病気の究明と、その再生、治療につながる可能性があります。

用語説明

  1. グリア細胞: 脳内に存在する神経細胞以外の細胞群。近年脳の情報発信・処理等で、重要な役割を果たしていることが明らかにされつつあります。
  2. オリゴデンドロサイト: グリア細胞の一種。神経細胞に対して髄鞘を形成し、神経の情報処理速度を飛躍的に上昇させます。
  3. 髄鞘: オリゴデンドロサイトが神経細胞に対して形成する絶縁性の膜構造。髄鞘が形成されることにより神経伝導速度が上昇します。
  4. 多発性硬化症: 脳や脊髄の髄鞘が破壊される病気で、自己免疫性疾患のひとつです。完治が難しい難病で国から指定難病に指定されています。
  5. ウイルスベクター: 無毒化したウイルスの遺伝子を改変し、目的のタンパク質などを発現するようにしたウイルスです。遺伝子治療などへの応用が研究されています。

図1 実験の手法と結果

20161019ikenaka-1.jpg新規ウイルスベクターを用いることでオリゴデンドロサイトと神経細胞を同時に標識出来るようになりました。右図で緑色の細胞がオリゴデンドロサイトで、赤色または青色の繊維はそれぞれ異なる種類の神経細胞の軸索です。この手法を用いた実験の結果、一部のオリゴデンドロサイトは運動に関係する神経細胞や感覚刺激に関係する神経細胞など、特定の役割を持った神経細胞に対して優先的に髄鞘形成することが分かりました。

図2 今回の発見内容の模式図

20161019ikenaka-2.jpg

この研究の社会的意義

オリゴデンドロサイトが特定の神経細胞に髄鞘形成することにより、記憶や学習が亢進している可能性が考えられます。
また、本研究で開発された技術は、多発性硬化症など髄鞘異常に起因する病気のメカニズムを究明するための非常に有効な手段になると考えられます。

論文情報

Rabies virus-mediated oligodendrocyte labeling reveals a single oligodendrocyte myelinates axons from distinct brain regions.
Yasuyuki Osanai, Takeshi Shimizu, Takuma Mori, Yumiko Yoshimura, Nobuhiko Hatanaka, Atsushi Nambu, Yoshitaka Kimori, Shinsuke Koyama, Kenta Kobayashi, Kazuhiro Ikenaka
GLIA  2016年10月19日オンライン版掲載予定

お問い合わせ

<研究について>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
分子神経生理研究部門 助教 清水 健史(シミズ タケシ)

<広報に関すること>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
研究力強化戦略室
TEL:0564-55-7722 FAX:0564-55-7721
EMAIL:pub-adm@nips.ac.jp


 

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