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頭頂間溝皮質は注意に影響される視覚グルーピングに関係する

2009年11月19日

概要

視覚グルーピングは視覚対象の検出に重要な働きをしている。視覚グルーピングとは視野上の複数の離散的要素をつなぎ合わせて一つのまとまった群として捕らえることである。例えば、同じコントラストのドットが連続的に並んでいると、ドットがつなぎ合わされて線として知覚される(図1A)。このつなぎ合わせは点と点の空間的な配置や類似性、つまり図に含まれる要素間の関係に基づいて生じる。また、グルーピングは過去の経験や知識などのトップダウンのメカニズムも働くことが知られている(図1B)。しかしながら、トップダウン的なグルーピングがどのような神経メカニズムによって生じているのかはわかっていない。そのことを明らかにするために、グルーピングを必要とする課題をサルに行わせ神経活動の記録を行った。

複数のドットによって構成される視覚刺激をコンピュータディスプレイ上に呈示し、サルに視覚刺激の弁別を行わせた。視覚刺激は空間的に離れて配置する白または黒の5つの正方形ドットが十字に配置して構成される(図2A)。ドットのコントラストの組み合わせによって20種類の視覚刺激を作成し、同じコントラストのドットが縦または横に一直線に並ぶパターンをターゲット刺激、それ以外をノンターゲット刺激とした。サルは1試行中に連続的に提示される視覚刺激からターゲット刺激を検出する(図2B)。さらに、この課題ではどの向きのターゲット刺激が呈示される確率が高いかをあらかじめ手がかりとして与えておき、サルがターゲット刺激の特定の向きに注意を向けるように操作した。

課題遂行中のサルの頭頂間溝皮質の外側壁(L-IPS)から107個の神経細胞の活動を記録した。図3に記録したニューロンの代表例を示す。このニューロンは、同じコントラストのドットが横に並ぶターゲット刺激に対して強く応答したが、縦に並ぶターゲット刺激に対してはほとんど反応を示さず、ターゲット刺激の向きについて選択的な反応を示した(図3A,B)。この向きに選択的な反応は視覚刺激の局所的なコントラストの差によっては説明できず、複数のドットがつなぎ合わされることによって作られた視覚特徴に対してこのニューロンが選択的に反応していることを示している。向きに選択的な反応は注意を向けている条件(赤色)と注意を向けていない条件(青色)の両方で見られたが、注意の条件間で反応を比較すると、注意を向けている条件下(赤色)ではターゲットの向きによる差がより大きくなることが分かった(図3A,C)。さらに、L-IPSのニューロン活動はサルの行動パフォーマンスと相関していた。このような反応特性は記録したL-IPSのニューロン集団においても共通に見られた。

これらの結果は、L-IPSのニューロンがグルーピングされた視覚対象を選択的に表現し、その表現がトップダウン的な注意を向けることによって強められることを示している。このことはL-IPSのニューロン群がトップダウン的な注意の影響を受けるグルーピングに重要な働きをしていることを示す。

【図1】 

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A:要素間の関係によって生じるグルーピング
空間的に離れて位置する白い四角と黒い四角は1つのまとまりとして捉えられ、それによって縦線が知覚される。
B:知識や経験に基づくグルーピング
風景の中にキリンが隠れている。キリンを見つける前は空間的に離れている点は背景の一部を構成しているが、キリンを見つけた瞬間それまで背景を構成していた点がキリンを構成する要素としてつなぎ合わされる。このつなぎ合わせはキリンについての知識(長い首、長い足、まだら模様など)によって促進される。
(このページの最後に元画像を載せています) 

【図2】 

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A:実験に用いた20種類の視覚刺激
各刺激は白または黒の5つのドットが十字に配置して構成される。□または■が横または縦に並んだパターンがターゲット刺激、それ以外はノンターゲット刺激。
B:1試行のタイムコース
視覚刺激は短い時間間隔で連続的に呈示される。ターゲット刺激が呈示されたときにレバーを放すことで報酬が得られる。

【図3】 

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A:4つのグラフはそれぞれターゲット刺激への神経応答の時間変動を示している。縦軸は記録したニューロンの発火頻度(1秒間のスパイク数)、横軸はターゲット刺激が提示されてからの時間を示す。各グラフの下段の黒いバーがターゲット刺激の呈示期間を表す。
B:それぞれの刺激に対する平均発火頻度。刺激呈示後50ミリ秒から250ミリ秒の期間で計算した。
C:ターゲットの向きに対する選択性の強さ。縦に並ぶターゲット刺激に対する反応の平均と横に並ぶターゲット刺激の反応。右側の棒の長さはそれらの差分を示し、向きに対する選択性の強さを表す。 注意が向けられている条件での反応は'赤色'、注意が向いていない条件での反応は'青色'で表す。

 東山動植物園のキリン(元画像)

20091119_2-4.jpg

 

論文

Yokoi I and Komatsu H
Relationship between neural responses and visual grouping in the monkey parietal cortex.
J Neuroscience, 29 13210-13221, 2009.

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