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体を守るバリアの仕組み
―細胞同士の隙間を塞ぐあらたなメカニズムを解明―

プレスリリース 2019年8月29日

概要

 私たちの体の表面は細胞のシートによって覆われていて、体の内部を外の環境から守るバリアとして働いています。このようなバリアを作るために、タイトジャンクションと呼ばれる接着装置が細胞と細胞を密着させて細胞同士の隙間を塞いでいます。これまで、タイトジャンクションの形成にはクローディンと呼ばれる膜タンパク質注1がとても重要であることが知られていましたが、他の膜タンパク質がどのような役割を果たしているのかははっきりしていませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の古瀬幹夫教授と大谷哲久助教は、タイトジャンクションにおいて、クローディンがイオンのような小さな物質も通さない強固なバリアを形成するのに対し、あらたに、「JAM-A」と呼ばれる分子がタンパク質などの大きな物質に対するバリアの形成に重要であることを明らかにしました。今回の成果は、タイトジャンクションの成り立ちの教科書的な理解に修正を迫るものです。本研究成果は、Journal of Cell Biology誌(2019年8月29日午後10時解禁)に掲載されました。

 私たちの体の表面は細胞のシートによって覆われていて、体の内部を外環境から保護するバリアとして働いています。生体のバリアは恒常性の維持に不可欠であり、その破綻はアトピー性皮膚炎や炎症性腸疾患など様々な疾患の発症に寄与すると考えられています。
 生体のバリアを作るためには、体の表面を覆う細胞同士の隙間を塞ぐことにより、様々な物質が漏れるのを防ぐ必要があります。タイトジャンクションはこのようなバリアを作るのに重要な接着装置であり、隣り合う細胞を密着させることにより細胞同士の隙間から物質が漏れるのを防いています。これまでの研究から、タイトジャンクションにはクローディンという膜タンパク質が存在し、バリアを作るためにとても重要であることが知られています。一方、タイトジャンクションにはクローディン以外にも「JAM-A」などいくつかの膜タンパク質が存在しますが、それらが生体バリアの形成にどのような役割を果たしているのかは明らかではありませんでした。

 今回、研究グループはまず生体バリアの形成におけるクローディンの役割を検証するために、ゲノム編集技術注2をもちいてクローディンを欠失する細胞を作成しました。その結果、クローディン欠失細胞では、イオンなどの小さな物質に対するバリアは壊れていました。しかし電子顕微鏡で観察すると、予想に反して細胞同士がまだ密着しており、タンパク質などの大きな物質に対するバリアは残存していることが分かりました。このことから、大きな物質に対するバリアの形成には、クローディン以外の別の分子も関与すると考えられました。
 そこで、研究グループはバリアの形成に何らかの役割を果たすと考えられていたJAM-Aに注目しました。ゲノム編集により、クローディン欠失細胞からさらにJAM-Aを取り除いたような細胞を作成したところ、この細胞においては細胞と細胞の間に隙間ができ、大きな物質に対するバリアも壊れることが明らかになりました。これらの結果から、JAM-Aが大きな物質に対するバリアの形成に重要であることが分かりました。

 これまで、タイトジャンクションのつくるバリアはクローディンによって担われると考えられてきました。今回の発見により、タイトジャンクションはクローディンによるイオンのような小さな物質も通さない強固なバリアとJAM-Aによるタンパク質などの大きな物質を通さない比較的緩いバリアという二つの異なるバリアの組み合わせによって構成されていることが明らかになりました。これらの結果はタイトジャンクションがどのように成り立っているのかについての教科書的な理解に修正を迫るものだと考えられます。

 古瀬教授は「今回の研究で、これまで考えられていなかったあたらしい生体バリアの仕組みがあることがわかりました。このバリアが実際に体のどのような器官ではたらいているのか、病態とどのように関係するか今後調べていきたい。」と話しています。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金、武田科学振興財団、稲盛財団の補助を受けて行われました。

今回の発見

  1. タイトジャンクションのバリアがクローディンのつくる強固なバリアとJAM-Aによる緩いバリアの組み合わせで成り立っていることを発見しました。
  2. クローディンが欠失すると小さな物質に対するバリアが壊れますが、予想に反して細胞同士に隙間ができず、大きな物質に対するバリアは残存することを明らかにしました。
  3. クローディンとJAM-Aの両方を欠損すると、細胞の間に隙間ができ、大きな物質に対するバリアも壊れることを明らかにしました。

用語解説

注1)膜タンパク質:細胞膜などの生体膜などに存在するタンパク質。生体膜をまたぐような情報や物質のやり取りや、細胞同士の相互作用など様々なはたらきを持つ。
注2)ゲノム編集技術:ゲノムDNAを特定の場所で切断するような部位特異的ヌクレアーゼを利用した遺伝子改変技術。CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)、TALEN(タレン)、ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)などいくつかの方法が知られている。本研究においてはCRISPR/Cas9およびTALENを使用している。

図1 クローディンとJAM-Aによる細胞同士の密着構造の形成

20190826otani-1.pngタイトジャンクションがつくる細胞同士の密着構造を、電子顕微鏡を用いて観察しました。正常細胞およびクローディンを欠失した細胞においては細胞同士が密着していて、細胞同士の間に隙間がありませんが、クローディンとJAM-Aの両者を欠失すると、細胞と細胞の間に隙間ができている様子が観察されます。
 

図2 クローディンとJAM-Aによるバリアの形成

20190826otani-2.pngタイトジャンクションは、細胞同士の隙間を塞ぐことによりバリアを形成します。クローディンを欠失すると小さな物質に対するバリアが壊れますが、タンパク質などの大きな物質に対するバリアは残存します。クローディンとJAM-Aの両者を欠失すると、細胞と細胞の間に隙間ができ、大きな物質に対するバリアも壊れてしまいます。これらのことから、タイトジャンクションのバリアがクローディンのつくるイオンのような小さな物質も通さない強固なバリアとJAM-Aによる大きな物質を通さない緩いバリアの組み合わせで成り立っていると考えられます。
 

この研究の社会的意義

今回の知見は、バリアの異常を伴う様々な疾患の病態の理解につながることが期待されます。

論文情報

Claudins and JAM-A coordinately regulate tight junction formation and epithelial polarity. 
Tetsuhisa Otani, Thanh Phuong Nguyen, Shinsaku Tokuda, Kei Sugihara, Taichi Sugawara, Kyoko Furuse, Takashi Miura, Klaus Ebnet, and Mikio Furuse.
Journal of Cell Biology.   日本時間2019年8月29日午後10時掲載

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞構造研究部門
教授 古瀬幹夫 (フルセミキオ)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所

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