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イブジラストに抗がん剤の副作用(筋萎縮)軽減効果!
~既承認薬の適応拡大に期待~

2019年9月 4日 プレスリリース

概要

がんやがん治療に伴ない、四肢・体幹や心臓の筋肉がやせ細ることがあります。この様な筋肉の萎縮は、日常生活での支障の原因となり、また病状の悪化にもつながります。しかしながら、筋肉の萎縮に対する有効な治療法は確立されていません。
今回、生理学研究所の西田基宏教授(九州大学教授兼務)は、静岡県立大学、大阪府立大学、東京大学との共同研究で、心筋細胞や骨格筋細胞を萎縮させる原因となるTRPC3-Nox2タンパク質複合体の形成を阻害する薬剤を既承認薬の中から見つけ出し、抗がん剤の副作用による心筋や骨格筋の萎縮を軽減することを明らかにしました。
本研究結果は、英国薬理学会誌に掲載されました(令和元年8月30日号掲載)。

 加齢や栄養不良、その他さまざまな疾患(慢性閉塞性肺障害、がん関連悪液質、糖尿病、腎不全、心不全、クッシング症候群、敗血症、熱傷、外傷など)によって、筋肉や臓器の萎縮が全身的に生じることが知られています。筋肉や臓器の萎縮は、しばしば日常生活に支障をきたし、病状の悪化につながることがありますが、有効な治療法は確立されていません。
 私たちのグループはこれまで、心筋萎縮の分子メカニズム解明について研究を進めてきました。活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)の生成酵素である細胞膜タンパク質NADPHオキシダーゼ2(Nox2)の分解が抑制されると、ROSの生成が促され、筋萎縮が誘導されます。私たちはこれまでの研究で、細胞膜上に存在するCa2+透過型カチオンチャネル(transient receptor potential canonical (TRPC) 3)が、Nox2と相互作用し複合体を形成することで、Nox2タンパク質の分解を抑制していることを報告しました。さらに、このTRPC3-Nox2複合体は、低酸素や抗がん剤であるドキソルビシン(Doxorubicin)1)によって増加し、ROS生成を促すことで、心筋の萎縮を誘導することも明らかにしてきました。
 今回私たちは、心筋の萎縮を誘導するTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害する化合物を既承認薬の中から探索し、その有効性の検証を行いました。
 独自の方法で薬の探索を行った結果、抗ぜんそく薬であるイブジラスト(Ibudilast)がTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害することが明らかとなりました(図1)。ドキソルビシン投与により、心筋細胞および骨格筋細胞ともに、萎縮が認められましたが、イブジラストの処置により、これらの筋萎縮が有意に抑制されました。
そこで、マウスを用いて検討したところ、ドキソルビシン投与により体重減少が確認され、その3日前からイブジラストを投与することで、ドキソルビシンによって引き起こされた体重減少が有意に回復しました。さらに、ドキソルビシン投与2週間後の時点における臓器重量を測定したところ、イブジラスト投与により、心臓重量と骨格筋重量、脾臓重量の減少が有意に軽減されました。
 また、骨格筋における活性酸素の産生を検討したところ、ドキソルビシンによって活性酸素の増加が確認され、イブジラスト投与によって活性酸素の産生が抑制されることが明らかとなりました(図2)。一方で心筋細胞にタバコ副流煙を暴露させると活性酸素の増加とNox2の上昇が認められました。イブジラストの投与によりタバコ副流煙による活性酸素の産生もNox2の発現も有意に抑制されました。
 今回の結果より、ドキソルビシンやタバコ副流煙によって、TRPC3とNox2の複合体が形成され、心筋毒性や骨格筋萎縮、マクロファージ細胞死が引き起こされることが明らかとなりました(図3)。また、イブジラストによりTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害することで抗がん剤の副作用(筋肉・臓器の消耗)を軽減する可能性が示されました。イブジラストの適応拡大により健康長寿社会の実現に大きく貢献する可能性も期待できます。

 本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金、文部科学省の新学術領域「酸素生物学」、喫煙科学研究財団、小野医学研究財団などの研究助成、ならびに日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(九大拠点)」による支援を受けて行われました。

この研究の社会的意義

 既承認薬の中からTRPC3-Nox2複合体形成を阻害する薬(イブジラスト)を見出しました。抗がん剤との併用療法により、化学療法の安全な継続使用が可能になり、適応疾患の幅も広がる可能性が期待されます。また、イブジラストは筋肉や臓器の萎縮を軽減できる可能性があり、イブジラストの適応拡大により健康長寿社会の実現に大きく貢献する可能性も期待できます。

今回の発見

  1.  既承認薬の中から抗ぜんそく薬であるイブジラストがTRPC3-Nox2複合体形成を阻害することを明らかにした。
  2.  イブジラストはドキソルビシンの副作用である心筋萎縮や骨格筋萎縮、免疫毒性を軽減できることを動物細胞およびマウスを用いて明らかにした。
  3. タバコ副流煙によって引き起こされる細胞毒性についてもイブジラストにより軽減できる可能性が示された。

用語説明

ドキソルビシン:アントラサイクリン系の抗腫瘍性抗生物質。アドリアマイシン(Adriamycin)ともよぶ。腫瘍細胞のDNAの塩基対間に挿入し、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、トポイソメラーゼII反応を阻害し、DNA、RNA双方の生合成を抑制することで抗腫瘍効果を示す。

図1 TRPC3-Nox2タンパク質複合体形成を阻害する化合物のスクリーニング

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これまで、TRPC3チャネルタンパク質と活性酸素の生成酵素(NADPHオキシダーゼ(Nox2))の安定な複合体の形成が、圧負荷による心臓の線維化や抗がん剤による心筋萎縮の原因であることを明らかにしていました。(Kitajima et al., Sci. Rep. 2016 :Shimauchi T et al., JCI Insight. 2017 参照)。今回、独自の方法で薬の選定を行い、既承認薬の中からTRPC3-Nox2複合体の形成を抑制するイブジラストを特定しました。(A:スクリーニング方法および結果。 B:HEK293細胞にTRPC3-EGFPとFLAG-Nox2を発現させ、免疫沈降法を用いて複合体に対するイブジラストの効果を検討した結果。)
 

図2 イブジラストはドキソルビシンの副作用を軽減する。

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抗がん剤の累積投与により筋肉や臓器の消耗が引き起こされることが知られています。抗がん剤ドキソルビシン(DOX)投与マウスでは心臓、骨格筋および脾臓の重量の減少が認められました。イブジラストはTRPC3-Nox2複合体の形成を抑制することで、DOXによって引き起こされる活性酸素の産生および臓器の萎縮を抑制することを明らかにしました。(A:ドキソルビシン投与後の体重変化 B:心臓および脾臓の重量 C:腓腹筋の重量 D:腓腹筋におけるROSの産生量をDihydroethidium (DHE)染色で評価した結果)

図3 本研究の概略

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本研究により、抗がん剤やタバコ副流煙によって、TRPC3とNox2の複合体が形成され、心筋毒性や骨格筋萎縮、免疫毒性が引き起こされることが明らかとなりました。さらに、既承認薬であるイブジラストがTRPC3-Nox2複合体の形成を抑制することでこれらの副作用を軽減することを見出しました。

論文情報

Nishiyama K, Numaga-Tomita T, Fujimoto Y, Tanaka T, Toyama C, Nishimura A, Yamashita T, Matsunaga N, Koyanagi S, Azuma YT, Ibuki Y, Uchida K, Oda S and Nishida M. 
Ibudilast attenuates doxorubicin-induced cytotoxicity by suppressing formation of TRPC3-Nox2 protein complex.
British Journal of Pharmacology. 2019
DOI: https://doi.org/10.1111/bph.14777

お問い合わせ先

<研究について>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
心循環シグナル研究部門
国立大学法人 九州大学 大学院薬学研究院 創薬育薬研究施設統括室(併任)
教授 西田 基宏(ニシダ モトヒロ)

国立大学法人 九州大学 大学院薬学研究院 創薬育薬研究施設統括室
特任助教 西山 和宏(ニシヤマ カズヒロ)

<広報に関すること>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
研究力強化戦略室

国立大学法人 九州大学 広報室

<AMED事業に関すること> 
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬戦略部 医薬品研究

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
自然科学研究機構 生命創成探究センター
国立大学法人 九州大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

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