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セミナー詳細

2013年02月08日

刺激―報酬間の連合学習における眼窩前頭皮質の役割

日 時 2013年02月08日(金) 11:00 より 12:00 まで
講演者 小川正晃博士
講演者所属 Postdoctoral Associate, Synthetic Neurobiology     Group, MIT Media Lab,MIT (Edward Boyden研究室)
お問い合わせ先 対応者 伊佐正
要旨

世の中のほとんど全ての物事は不確実である。近年、不確実な報酬情報に動物がどう 対処するのかは、神経生理学、神経経済学、動物心理学など様々なバックグランドを 持つ脳科学者の注目を集めている、ホットな問題である。眼窩前頭皮質 (orbitofrontal cortex, OFC)は不確実な報酬条件での 意思決定に関与する。感覚刺激 を不確実な報酬と条件付けすると、その刺激提示に伴うOFCの活動は、報酬の不確 実性 の度合いに応じて変化する。この活動の解釈として、OFCが 数学的に定義される不確実 性のパラメーター(分散、または「リスク」)そのものを表象する可能性が示唆されて きた。しかしながら、むしろ報酬不確実性を導入するための条件付けを動物がどう学習 し、認知しているのかを反映している可能性があった。そこで我々は、ラットに、4つ の匂い刺激と100%、67%、 33%、0%の4つの異なる報酬確率を条件付けする シンプルな課題を学習させた。大変興味深いことに、十分な学習の後、ラットは33%、 67%、 100%、0%の順に早く報酬を提示される場所に向かった。この行動パター ンは既存の強化学習モデルでは説明できず、連合学習における注意に関する新規モデル で説明できた。このラットのOFCからシングルユニット記録実験を行ったところ、 一見 リスクと共変化するように見えた活動は、リスクそのものよりは学習によって獲得され たサリエンスによってより良く説明できた。この結果は、不確実な報酬条件付け学習に おいて、OFCがどう機能しうるのかのみならず、どう動物が行動するのかについて も新 しい視点を与えるものである。    
上記の研究では、神経活動と想定された機能の間の相関関係は 示されているものの、 因果関係については不明である。刺激―報酬間の連合学習におけるOFCの 因果的役割は、 古典的な領域損傷実験によって良く調べられており、種を超えて基本機能が保存され ていることが知られている。しかし、古典的損傷実験では、 神経回路特異的、時間 特異的な因果的役割には迫ることができない。私の大学院時代の仕事は、足場蛋白 として代謝型グルタミン酸受容体の神経細胞内情報伝達 を担うTamalinの遺 伝子欠 損マウスの行動レベルでの研究である。本セミナーにおいては、この研究内容、およ び今後の方向性についても紹介する。

参考文献) 1) Ogawa, et al., (2007), Altered sensitivities to morphine and cocaine in scaffold protein tamalin knockout mice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA, 104:14789-14794.
2) Ogawa, et al., (2013), Risk-responsive orbitofrontal neurons track acquired salience. Neuron, 77: 251-258.