AMPキナーゼ(AMPK)は、細胞内エネルギーレベルの低下などによって活性化し、糖、脂質、蛋白質代謝を制御してATPレベルを回復させる。視床下部AMPKは、摂食調節に関与し、絶食させると室傍核(PVH)など視床下部神経核においてAMPK活性が高まる。
マウスを絶食後に再摂食させると、高脂肪食ではなく高炭水化物食を多く選択、摂取することを見出した。また、この変化がAMPKに対するshRNAをPVHに発現させると消失する事を見出した。PVHニューロンに持続活性型AMPKを発現させると、絶食時と同様に、高脂肪食ではなく高炭水化物食を選択、摂取した。この食物選択行動は、PVHに存在する数種類のニューロペプチドの中で、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)をPVHに微量投与した時のみ観察された。Cre選択的DREADD発現系を用いてCRHニューロンを選択的に活性化することによっても、高炭水化物食の選択が有意に増加することを確認した。さらに活性化の指標であるAMPKのリン酸化 (Thr172)が、PVHにおける一部のCRHニューロンにおいて絶食時に亢進することも確認した。そこで、CRHニューロン選択的にAMPKを活性化させると、絶食時と同様に高炭水化物食の選択が有意に増加し、逆にAMPKに対するshRNAをCRHニューロン特異的に発現させると消失した。
以上から、PVHに含まれるCRHニューロンの内、少なくとも一部のニューロン群が、AMPKを介して炭水化物食と脂肪食の選択行動を制御することを明らかにした。絶食後の再摂食において炭水化物食を選択する行動は、マウス個体、あるいは脳の糖代謝を速やかに改善するための恒常性維持機構の一つと考えられる。
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