髄鞘はグリア細胞用語説明1が神経細胞の軸索に巻き付いたもので、神経が情報を速く伝える助けをしています。髄鞘が正しく形成されなければ、神経細胞は正常に機能することができなくなります。これまでの研究から、髄鞘形成に関わるタンパク質は分かってきました。しかし、それらのタンパク質がどのような修飾を受けて機能しているのかは不明でした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の吉村武助教(研究当時、現 大阪大学助教)と池中一裕教授、大野伸彦特任准教授、東京薬科大学の林明子講師、山口宜秀准教授、馬場広子教授、名古屋市立大学の矢木宏和講師、名古屋大学の内村健治特任准教授、門松健治教授、自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所の加藤晃一教授、米国クリーブランドクリニックらの共同研究グループは、末梢神経系の髄鞘のタンパク質が硫酸化された糖鎖用語説明2を持ち、それが髄鞘の形成に必要であることを明らかにしました。さらに、指定難病のシャルコー・マリー・トゥース病用語説明3に関わるP0タンパク質が硫酸化された糖鎖を持つことも明らかにしました。本研究成果は、末梢神経障害用語説明4の病態解明や治療法の開発に繋がることが大いに期待されます。本研究結果はNature publishing Groupが発行するScientific Reports誌に掲載されます(日本時間2017年2月10日午後7時オンライン掲載)。 |
神経細胞の軸索に巻き付いている髄鞘は、絶縁体として働くだけでなく、神経細胞と密接に情報交換を行いながら様々な神経機能を調節しています。髄鞘に異常が生じると、神経細胞が正しく働くことができなくなるために様々な病気を引き起こすことが知られています。これまでの研究から、髄鞘の形成に関わるタンパク質は分かってきていました。タンパク質は修飾されることで重要な働きができるようになりますが、髄鞘のタンパク質がどのような修飾を受けているのかはこれまでよく分かっていませんでした。
今回、我々の研究グループは、独自に開発してきたタンパク質の糖鎖修飾を網羅的に解析する手法に改良を加え、髄鞘のタンパク質を調べました。その結果、マウスやブタなど多種多様な哺乳類の末梢神経系の髄鞘には硫酸化された糖鎖を持つタンパク質が多量にあることを見つけました。さらに、指定難病のシャルコー・マリー・トゥース病の原因遺伝子が作るP0タンパク質が高レベルで硫酸化された糖鎖を持つことも明らかにしました。糖鎖構造の網羅的解析から硫酸化の様式に法則を見つけ出し、糖鎖を硫酸化する酵素を突き止めました。その酵素を持たないマウスでは異常な髄鞘が観察され、軸索も壊れていることが分かりました。
以上の研究結果から、タンパク質に硫酸化された糖鎖が修飾されることが末梢神経系の髄鞘形成に重要であることが明らかとなりました。タンパク質の糖鎖が硫酸化されなくなると髄鞘が正常に機能できなくなり、神経機能の障害が引き起こされると考えられます。本研究により発見されたことは末梢神経系の髄鞘が作られるための基本的なメカニズムであり、様々な末梢神経障害の病態解明や治療法の開発に役立つと期待されます。
本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金と文部科学省の新学術領域「グリアアセンブリ」・「神経糖鎖生物学」・「動的秩序と機能」、日米科学技術協力事業「日米脳」、自然科学研究機構の生理学研究所・計画共同研究および若手研究者による分野間連携研究プロジェクトによる支援を受けて行われました。
神経細胞は次の細胞に情報を伝えるために軸索と呼ばれる長い突起を持っています。髄鞘は軸索を何重にも取り囲んでいる構造です。髄鞘は導線を覆うビニール管のように軸索全体を覆っているのではなく、ところどころに隙間を作っています。刺激がこの隙間のみを経由して飛び飛びに伝わる(跳躍伝導)ために、神経細胞は情報を速く伝えることができます。髄鞘に異常が生じる(脱髄)と、適切に情報を伝えることができなくなります。また、神経細胞の軸索自体が壊れてしまうこと(軸索変性)もあります。末梢神経系の髄鞘異常は末梢神経障害を引き起こします。
末梢神経系の髄鞘では、P0タンパク質が硫酸化された糖鎖を持つことでP0タンパク質同士が結合できるようになり、この結合が髄鞘の形成に重要であると考えられます。タンパク質の糖鎖を硫酸化する酵素(硫酸転移酵素)を持たないマウス(ノックアウトマウス)では髄鞘異常や軸索変性が見られます。
本研究成果では、末梢神経系の髄鞘がどのように形成されるのか、そのメカニズムを解明しました。これまでの研究はタンパク質そのものに着目しており、タンパク質が正常に機能するためにどのような修飾がされているのかについては不明でした。今回の研究では、硫酸化された糖鎖という研究が進んでいなかったタンパク質の修飾の重要性を証明できました。本研究成果は髄鞘の異常が原因となる病気の原因解明および治療法確立の新たな突破口になる可能性があります。
GlcNAc6ST-1 regulates sulfation of N-glycans and myelination in the peripheral nervous system.
Takeshi Yoshimura, Akiko Hayashi, Mai Handa-Narumi, Hirokazu Yagi, Nobuhiko Ohno, Takako Koike, Yoshihide Yamaguchi, Kenji Uchimura, Kenji Kadomatsu, Jan Sedzik, Kunio Kitamura, Koichi Kato, Bruce D. Trapp, Hiroko Baba, Kazuhiro Ikenaka
Scientific Reports 2017年2月10日午後7時オンライン版掲載予定
<研究について>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
分子神経生理研究部門
教授 池中 一裕(イケナカ カズヒロ)
国立大学法人 大阪大学大学院 連合小児発達学研究科
こころの発達神経科学講座 分子生物遺伝学研究領域
助教 吉村 武(ヨシムラ タケシ)
<広報に関すること>
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
研究力強化戦略室
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 分子科学研究所
広報室
国立大学法人 名古屋大学
広報渉外課
学校法人 東京薬科大学
総務法人広報課
公立大学法人 名古屋市立大学
事務局企画広報課広報係
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
東京薬科大学
名古屋市立大学
名古屋大学
自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所