ご挨拶

2011年10月   伊佐 正 

バンコク、ゲッティンゲンそしてチュービンゲン

9月の末から海外出張が続いた。
まずは岡田所長とご一緒に9月29日の夜中(実は30日の0時30分)関西空港発でバンコクに行き、チュラロンコン大学薬学部と相互交流協定を締結するための出張。
タイとは私が1988-90年にスウェーデンのイェテボリ大学に留学していた頃からの繋がり。当時私はBoonyong Tansisiraさんと一緒に仕事をしていた。奥さんのMayureeも心臓血管系の生理学のラボにいて、家族ぐるみでつきあっていた。うちの子供たちのことも赤ん坊のころから知っているという感じである。帰国後しばらく音信が途絶えていたが、その後Boonyongはチュラロンコン大学の薬学部長になり、私が岡崎に来てからはまた2人でしばしば訪ねてきてくれるようになって交流が再開した。タイでは多くの若手の研究者は大学院からポスドクの一時期を海外の研究室で過ごすが、その帰国するとなかなか研究(少なくとも国際的なレベルでの研究)はできない。やはり研究マインドを持っている人たちを継続して教育研究のレベルを維持していくためには若い人を受け入れる外国のラボとのつながりが重要である。それで、英国で学位を取った後帰国していたThongchaiを最初2003年度の1年間送ってくれた。その後もThongchaiはしばしば短期で訪れては実験を追加した。今回数えてみてわかったのは既に何と13回も岡崎を訪れているということで、これまでPNAS1編、JNP1編。EJN2編、NSR1編、いずれもfirst authorで論文を発表し、現在も1編は投稿中である。Thongchaiにしても日頃はタイで教育や学部のマネジメントに忙殺され、研究どころではないが、時々岡崎に来ては研究を続けることで(本当に腕が良い!)、国際的な研究の第一線とつながっているという気持ちが持てることがとても重要だと感じてくれているようである。その後もPenphimon, Anusara, Aree, Oraphanと続けて来てくれていて、お互いにwin-winの関係を築けているのはとても嬉しいことである。今回の締結はBoonyongとMayureeがチュラロンコンを停年で退職する日に行われた。彼らが残してくれたものを形にできたことはとても嬉しかった。今後は私の研究室だけでなく、交流が生理研全体に広がることを期待したい。


(写真) 皆で昼食。
左からThongchai, 岡田先生、私、Boonyng, Mayuree, Ratchanee (Tuk)

10月2日にタイから帰国して2日間だけおいて今度はドイツ出張になった。今回の目的はTuebingen大学のHertie-Institute for Clinical Brain Researchの開設10周年シンポジウムに呼ばれたことだが、せっかくなのでTuebingenに入る前にGoettingenのGerman Primate Centerを訪問した。ホストしてくれたのは最近CaltechのRichard Andersenのラボから2人してGoettingenでPIになったIgor KaganとMelanie Wilkeの若いカップルで、ここ数年、ASSC繋がりで付き合ってきた。今年のASSCには震災の直後で多くの欧米の人たちがキャンセルする中で来てくれたのには励まされた。二人ともPIとして独立したばかりのラボの立ち上げ中で、こればかりは世界中どこでも例外なくpressureとストレス一杯の時期なのだが、とてもいろいろ気を遣ってくれて大変有意義な訪問だった。特にGerman Primate Centerの前所長のEberhard Fuchs先生とは、マーモセットの国際ネットワーク形成のことで一度はお会いしなくてはと思っていたのが、今回叶って、じっくりお話できたのは大変な収穫だった。
その後のTuebingenのシンポジウムは分子から回路、システムにシステムバイオロジーに疾患、ロボティックスまでという大変ヘテロな会で、それぞれの最先端の人たちをドイツ周辺を中心に世界中から集めたような会だった。Peter Jonas, Helmchen, Mark Ellisman, Wolfram Schultz, Martin Schwab, Wolfgang Wurstといった人たちに混じって話をするのはプレッシャーだったが、トークはそれなりに上手くいったと思う。Peter Jonasとは同世代だが、93-95年に群馬の小澤先生の研究室にいた頃に、ちょうどCa透過型AMPA受容体について、その中枢での介在ニューロンでの分布、単一細胞RT-PCR、ポリアミンによる修飾といった問題で世界中のラボがしのぎを削っていた頃の競争相手。悲しいかなHeidelbergのSakmann-Seeburg研の連合軍のもとで仕事をしていたJonasとHanarh Monyerのコンビにはいつも少しずつ負けていて、「敵わないなあ・・・」と思っていた。だから今回、私のトークが終わった後で「凄い!」と言ってもらえたのは長年の敗北感を今になって少し払拭できた感じがして嬉しかった。私はGlutamate receptorの世界はわずか3年弱で去ったので当時直接その問題で話すことは当時なかったのだが、今回「一度聞きたいと思っていたのだけれど、君はあのIsa et al.のIsaなのか?」と聞かれたのはちょっと楽しい思いがした。
(写真1)ホテルの窓から眺めたTuebingenの街並み
(写真2)丘の上の城郭から眺めたTuebingenの街並み
(写真3)ネッカー川の畔


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 伊佐 正 教授 
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