ご挨拶

2012年11月   伊佐 正 

                                       LouisvilleそしてNew Orleans

もう帰国してしばらく経過したが、10月10日に日本を発ち、米国ケンタッキー州のLouisville(ルイビル)に立ち寄ってからNew Orleansで開催される北米神経科学学会に参加した。
Louisvilleは視覚系の神経解剖学者のMartha Bickfordさんの招待。昨年のGordon Research Conference(GRC)で私が急遽自分の口演の一部を変更してウィルスベクターの2重感染法による経路選択的遮断の話をしたところ(Eye movementのGRCで手の話をしたのだが)、いち早く共同研究を申し入れてくれた。長年付き合いの深かったBill Hallの弟子ということもあったし、私がこれからサルで選択的遮断法でやりたいと思っている上丘-視床枕の経路をツバイで遮断して視覚行動に対する影響を見たいという申し出にはいろいろ教わることも多いに違いないと思ったのが付き合いを深めることになる理由だった。Louisvilleは、訪れてみて分かったことだが(なんていうと失礼なのだが)、視覚のグループと脊髄損傷の大きなグループがある大学で、そういう意味では私にはぴったりの場所だった。脊髄チームも歓待してくれたし、私のセミナーに向けて、私の最近のNatureの2重感染の論文と、上丘関係の論文をジャーナルクラブで皆で熟読してから臨んでくるという凄い意気込みで感激した。
New Orleansはハリケーンで一度学会が流れてしまって以来久しぶりだったが、Liverwalkのモールはまだまだという感じだったが街全体としてはかなり復興している印象だった。今回は何故だか旅行中全然時差が合わず、終始苦しかった(お蔭で帰国後は楽だったが)。特に午後は最悪で本当にホテルに戻ってベッドに倒れ込みたいような毎日だった(ホテルが少し遠かったのでそれはできず)。一方で夜になると元気になってしまう。夜は研究室の皆や日本から来た他の研究室の人たちや留学中の人たちと食事をするのが楽しみだが、一方で色々なイベントもある。一つはsection editorをしているNeuroscienceのeditorial board meeting。ちょっと違う分野の著名な研究者とお会いするのが楽しくもある。また、Science & Eppendorfが出している若手賞の授賞式&パーティに招待され、参加したのだが、大学院での仕事に出す賞の選考のポイントが「研究内容とともに一般へのプレゼン能力」というのもこれからの研究者に要求される要件として万国共通なのかなと思った。あとはドイツのErnst Strungmann財団の立食パーティ。2004年にSten GrillnerとAnn GraybielがmicrocircuitのDahlem Conferenceを主催した時にJean-Pierre ChangeauxやHenri Markramといった人たちとともにprogram advisory committeeに加えてもらったのだが、その時にDahlem conferenceの事務局を長年世話してきたJulia Luppさんと知り合いになった。Dalhemはその後続かなくなったけれど、場所をベルリンからフランクフルトに移してWolf Singerが代表になって活動はErnst Strungmann財団に引き継がれた。同財団はSfNやFENSの時にこれまで関わり合いのあった人たちをJuliaが招待して立食のdinnerを催すのだが、前回のAmsterdamでのFENSの時以来また声をかけてもらうようになり、今回が2回目。著名人とそこの研究室の若手の社交の場といった感じである。
SfNの会場はとてもbusy。全てを見て回ることはとても無理である。最近は検索システムが随分発達してきたのだが、それでも自分が関係している分野の重要な研究発表をミスしてしまうことが少なくない。「先生はどうやっているのですか?」と聞かれるのだが、その中でやはり結構役立つのが「口コミ」。SfNに行くことの一つの大きな目的は「人と会う」ことで、「やあやあ、元気?今何やっているの?自分は今回・・・なことで演題を出しているけれど、他に何か面白い話あった?」なんていう会話を一日中繰り返している。そういう中で重要な演題、ポスターがないかを聞くのはかなり有用である。そうやって情報を得ないと、結局は名前の良く知られている研究室の口演、ポスターにばかり足を運んでしまう。新進のラボがいくら頑張っていても後回しにしてしまう。しかし、これは逆の立場についても言えることで、自分が上手く人目に止まらないと、いくら良い仕事をして日本から意気込んでポスターを持ってきても、割り当てられたセッションが静かなところだったりすると悔しい思いをしてしまうことになる。そこで大事なのは少しでも重要なキーパーソンに話を聞いてもらうことである。運が良いとその人が「XXのポスターは面白い」と他の人に言ってくれたり連れてきてくれたりすることになる。このように科学はいくら進んでも、極めてhuman factorが大きい、というのが長年この世界で仕事をしてきての実感である。



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 伊佐 正 教授 
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