ご挨拶

2013年6月   伊佐 正 

“Neuro2013”

 今年の神経科学大会(Neuro2013)が終了した。ここの所しばらくの間、庶務理事として大会を主催する側から大会を見るようになった。今回は神経化学会、神経回路学会との合同大会。国際生物学的精神医学会と連結するため、昨年の大会から約9か月余りという短い準備期間だったにも関わらず、どうやら3800人台の参加者を得たようで、前回の神戸での合同大会の4000人には達しなかったものの、盛会であったといえる。3学会の大会長他の皆さんには本当にご苦労さまでしたと申し上げたい。臨床系の国際大会に連結させたことの意義については、今後振り返って検討することになると思うが、最終日の「臨床医のための神経科学講義」が立ち見が出るような盛況であったことは注目に値する。破たんしないような範囲で色々な冒険的試行錯誤をしていく姿勢は学会としても必要なのだと思う。一方で、残念なのは、大会期間中色々な会議が入ってきて、私自身が学会場で発表を聞く時間がかなり短くなってきていることである。私が若い頃は同じ分野の「偉い先生」たちは丹念にポスター発表を回ってくれたり、口演セッションでは質問をして、こちらの研究の進展を見守り、コメントをくれていた。そのような役割を自分たちがきちんと果たせていないのではないかと思うととても心苦しい。
参加人数だけではなく当然中身が重要なのだが、脳プロや神経関係で多くの新学術領域が走っているために資金的にゆとりが出てきたのか、世界的に著名な多くの神経科学者が招聘されており、本来ならplenary lecturerでしかるべきような人が多く普通にシンポジストとして講演している姿が見かけられている。そこで次なる問題はこのようなお膳立てがそろった上で真に参加者の期待に応えるような深い議論、有用な情報交換の場になっていたかどうかである。これについてはアンケートを含めより広い範囲の人たちの本音の声を聴く必要があるが、私が招待したDoug (Munoz)はカナダの神経科学会の副会長(来年からは会長)だが、日本に来るとサルを用いた神経生理学の多くの質の高い研究者に会え、その発表を見れるし、また自分たちもコメントをもらえるということで、前回の2009年の大会に引き続き今回も研究室の若手の研究者を連れてきた。そしてその甲斐があったと満足顔だった。今後も連れて来たいと言っている。また昨年からSfNとの間で若手研究者の交換プログラムを実施しているが日本に神経科学会で発表してみたいというアメリカの若手研究者も増えてきており、かなり質の高い競争になっていると聞いている。このようにして学会の実質を高めることによる国際化の推進が私たちの望みであり、その方向での努力は着実に実ってきている。
今回、残念だったのはTravel Awardでの参加者の質が落ちているという指摘による採択人数減である。これは来年以降積極的にアジア地域の神経科学会に働きかけることで再度復活させたいというのが理事会での議論である。また、私としては近年上海や北京に米国から戻ってPIになっている優れた研究者たちを何とか日本の神経科学会に引き寄せたいと思っている。そのような求心力が上記のような「学会の中身」によってできるのか?そうすることで名実ともにSfN, FENSに並ぶ世界の第3極になるのが私たちの学会の目標である。

 

 


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 伊佐 正 教授 
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