ご挨拶

2013年10月   伊佐 正 

  今度は中国

9月20−22日に開催された第10回中国神経科学大会(北京)に参加した(http://www.csn.org.cn/2013/en/enindex.asp)。2年に1回の開催で、今年の参加者は約1800名とのこと。前回に比べて300名以上増加。まだ日本の神経科学会の約半分くらいのサイズだが、急激に拡大している。今回は大変光栄なことにPlenary lectureに呼んでいただき、初日の朝の開会式の後、引き続いて行われた2つのPlenary lectureの2番目に(一人目はミネソタ大学のTim Ebnerさん)話をさせていただいた。開会式からの流れだったので1000人ほど入る会場は満席。別のフロアーでは600人ほどがビデオを見ていたとのことで、こんなに大勢の前で話すのは初めてかなと思った。例によって脊髄損傷後の手の動きの回復過程などを追ったビデオを示しながら約45分間トークしたが、反応はまずまずではなかったかと思う。その後、会場では、東大の尾藤さんがco-organizerを務める日中神経科学会の合同シンポジウムが行われたが、200名を超える、特に若手中心の聴衆が集まってくれ(上海神経科学研究所所長のMuming Pooさんも来ておられたが)、大いに盛り上がった(日本側の講演者は尾藤さんと理研の村山さん)。夜のレセプションではMuming Pooさんの隣に座らせていただき(彼はもう100%上海に移ったそうだが)、随分昔に生理研に行ったという懐かしい話を手始めに、上海や中国全体の動向を伺えたのは有意義だった。中国では大学院の入試が共通で、そのトップクラスの学生が上海に来るとのこと。エリート教育が徹底している。日本神経科学会からは国際担当の副会長の田中啓治先生が参加された。前日清華大学を訪問され、北京では認知神経科学を中心とする多くの神経科学関係の研究所が開設され、多くの人材の公募があり、良い待遇で多くの優秀な研究者が米国などから移ってきているとのこと。これらは勿論ほとんどが中国人だが、そればかりではなく、例えば上海神経科学研究所には、私が良く知っているカナダのクイーンズ大学のMike Dorrisが最近PIで移ったし、北京大学にできたMcGovern Instituteには東大の宮下研出身の(以前生理研の客員部門の助手を務めていた)納家勇治さんがニューヨーク大学からこの9月にPIとして着任した。(http://mgv.pku.edu.cn/?co=posts&ac=faculty&catalog=enpiintro&pname=en_faculty_idx)一緒に食事をしたが、まだ来たばかりだが、同僚は米国帰りの人も多く、とても話がしやすく、学生も優秀とのこと。成功を祈りたい。このように中国の神経科学は実に活況を呈してきている。最初は分子神経科学中心だったが、システム神経科学も本格的に始まってきている。ポスター会場もにぎわっていたし(写真参照)、口演会場も、残念ながら講演者が中国人だけのシンポジウムはまだ中国語なのだが、私が参加したシンポジウムなどでは活発な良い議論が展開していた。会場では、以前に生理研や理研、京大、医科歯科大など、日本に留学していたという多くの方から親しく声をかけていただいた。学会を中心になって組織しているのが庶務理事のShigang Heさん(現在は上海交通大学)で、日本の神経科学会でも馴染みの人も多いと思うが、実に精力的に中国の神経科学会の活性化のために働いている。急激に組織が拡大するときは色々難しいこともあるのだろうが、素直に頑張ってほしいなと思う。このようにこういうご時世ではあるが、今回は大変歓迎していただき良かったと思う。あと10年もすると少なくとも規模の上では日本の神経科学学会は中国に追いつかれるだろう。その頃には、実際に中国発の論文が国際的一流誌にどんどん掲載される時代になっているだろう。その前に我々として何をしたらよいのだろうかということを考えながら帰ってきた。



 

 

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 伊佐 正 教授 
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