ご挨拶

2014年7月   伊佐 正 

“ここ最近・・・”

 新しい年度が始まって3か月余りが経った。新しい大学院生が入り、また入れ代わり立ち代わり外国からの来訪者があったのでしばらく落ち着かない状態だったが、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるように思う。新しい大学院生については、4月は総研大本部(葉山)や、他の研究室での研修があるので、本格的に私たちの研究室に入るのは5月からになる。最初は皆一律に解剖学の基礎ということで、サルの脳標本を切って、ニッスル染色をして、脳の構造の大枠を理解するという事から始める。これが全ての基本である。あまり時間がない後期入学(3年間)や医学博士コース(医学部、獣医学部、薬学部出身で4年間)については、そのままテーマを決めて6月あたりからそれぞれの研究グループに配属が決まるが、5年一貫制の学生については、多数ある研究室内のグループを1−2週間ずつ回って、研究室全体として何をどのようにしている人たちがいるのかを学び、その過程でその都度色々な相談をしながら最終的にテーマを決め、夏休み頃に配属を決める、という形を取っている。これが、様々な研究手法やそれをやっている人たちに触れ、その後5年間の私たちの研究室での研究活動をスムーズに進めていく上で重要なステップだと考えている。この春に入学した3人についても終わり近くを迎えている。
また、7月上旬からは、この1−2年間、JSPSやNSFのscholarshipを活用して頻繁に私たちの研究室にやってきては、上丘の回路の大規模シミュレーション研究をやってきた米国Indiana大学の大学院生であったRichard Veale君がJSPSの短期fellowshipを獲得し、これから1年間の予定で正式に私たちの研究室のポスドクになった。しばらくは世界で10番目に速いというIndiana大学のsuper computer (Red Hat 2)を使ってspiking neuron networkモデルによって上丘の回路研究を行う予定だ。今後、10月からは米国人の大学院生が入学、11月からはエストニア人のポスドクが加入予定である。
その他、4−6月末の3か月間は、私の先生でもあり、長年の共同研究者であるSwedenのUmeå大学のAlstermarkさんが来て、運動制御の下行路に関する実験(サル、ラット)を行った。また、4月から8月上旬まで、タイのチュラロンコン大学からThongchai Sooksawateさんが来て、上丘の局所回路に関する電気生理や光遺伝学的制御に関する実験を昼夜の区別なく、週末も行っている。あと、NIPS internshipの学生さんが一人は米国、もう一人はタイからやってきて、それぞれ2−4週間ずつ研修を行っていった。また、ベルギーのLeuven Katholic大学から大学院生がやって来て、Thongchaiと2週間、麻酔下のマウスの上丘の電気生理学的記録と光遺伝学的実験技術を習得していった。現在は、弘前に異動した木下君が一時的に来て、サルの神経回路操作の実験を行う傍ら、旭川医大の高草木先生、国立精神神経医療研究センターに移った梅田君が来てくれ、私と一緒にサルの運動性下行路を調べる電気生理実験を行っている。また、ここ数年、ラットの脳血管障害モデルで共同研究している名市大の飛田先生の研究室の助教の石田君も論文執筆前の最後の頑張りで顔を出している。今後は、8月末にベルギーの別の研究室から大学院生が来て、共同研究しているサルの組織標本を作製する予定だ。生理学研究所はいわゆる大学共同利用機関で、国内の共同研究のハブになることがミッションである。だが、国立天文台や核融合研、南極観測船を出している極地研などとは違い、そこにしかない大型の研究用機器というものは余りない。MRIやMEG、超高圧電子顕微鏡や、最近は3D-SEMなど、国内でいち早く導入したが、しばらくすれば他のところにも導入されるようになってくる(だろう)。そういうsmall scienceの私たちに何ができるのかというと、ソフト面での共同研究ということしかない。一方で、最近の研究の動向は、益々様々な研究領域の手法やアイデアを組み合わせて新しいものを作り出していく異分野連携が求められている。幸い、生理研には来訪者が宿泊しやすい安価で良く整備されたロッジがあるし、国内外からの共同研究者を支援するための様々な制度があって、私自身は長年それらの恩恵を享受し、多くの論文を共同研究の成果として出してきた。実際、スタッフは勿論、ポスドク、大学院生もそのほとんどが何らかの共同研究を担当するようにしているし、そういう共同研究に責任を持つ中で、研究者として、また人間として鍛えられる点が大きいと思っている。実際、自分によほどしっかりした技術と考え方を持っていないと、外部の優れた研究者達に相手にしてもらえない。
自分にできることは限られてはいるけれど、こういった国内外の共同研究のハブとして実質的に機能することができればと思うし、私自身、それがとても楽しい。

(他、最近あったこと、また今後の予定)
・スイスのMartin Schwabの研究室から、我々のベクターを使った研究の論文がScienceのArticleに出ました(Wahl et al. Science 344:1250-5, 2014)。他の研究室でもきちんとベクターが動き、優れた論文が出て、我々がacknowledgeされるのは嬉しいことです。
・6月には脳科学関連学会連合の評議員会。3年目を迎え、新しい体制に移行します。
・7月上旬にFENS(Milan)とそれに行き続きTuebingen (Germany)を訪問。FENSでは、日本神経科学学会の国際担当副会長としてFENSとの交流プログラム他に関する打ち合わせに参加。Tuebingenでは、研究費の共同申請の打ち合わせとセミナー。欧州はHuman Brain Programに関する議論で揺れていました。
・今(7月中旬)は、新しい研究費の申請も終わり、夏休みにかけて、少し時間ができて、実験をしたり、論文を書いたり、論文の構想を練ったりしています。 ・7月最終週は生理研のトレーニングコース
・8月第2週には、小林和人先生を代表とする新学術領域「適応回路シフト」の第一回総括班会議。間もなくオープンになりますが、9月の神経科学学会期間中にキックオフを開催します。
・8月の中旬は夏休み。まだ行先は決めていませんが、おそらく下界を離れて山の高いところに行っていると思います。





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 伊佐 正 教授 
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