ご挨拶

2016年1月   伊佐 正 

“ご挨拶”

明けましておめでとうございます。
また昨年夏以来更新が途絶えていました。
その間、色々なことがありました。
一番大きなことは、既にご存知の方も少なくないと思いますが、京都大学大学院医学研究科の「神経科学大講座」の教授に選任され、10月1日をもって着任となったことでした。生理研への着任が1996年1月でしたから、あと少しで20年というところでしたが、今回選んでいただいたことで、意を決して異動することにしました。
現在、生理研ではこれまで築き上げてきた施設をフルに活用し、さらに良い人たちに囲まれて何不自由なく研究が出来ており、実際現在の研究活動はあらゆる面でこれまでのピークにあると言って良い状況であると思います。そういう状況からさらに何故敢えて変化を求めるのか?ということですが、理由は主に以下の3点に集約されると思います。

  1. 1996年に着任した当初、私を採用してくださった当時の所長であった濱先生から「このまま定年までいると30年になりますが、定年までいようなどと思ってはいけません。やはりどこかの時点で移ってさらに展開することを考えなさい。」と言われたこと。これは未だに私にとってはとても重い言葉です。実際に、大学共同利用機関としての生理研の役割として、少なくとも当時は、「若手を採用して育てて出す」ということがコミュニティの中での暗黙の合意事項としてあったように思っています。当時まだほとんど実績もなかった状況なのに期待値だけで教授にして、育てていただいた私としては、私なりのやり方でコミュニティに対して恩返しをする必要があると考えています。
  2. それに関係して、二番目の理由としては、大学の医学部で人材育成にあたりたいという気持ちです。やはりこれまでの日本の生命科学の少なからぬ部分は有力な大学の医学部・医学研究科出身者が担ってきたという部分があることは否めないと思います。昨今の諸般の状況から、なかなか医学部出身者が基礎研究に進みにくい状況はあるようですが、私としては一人でも、二人でも、京大の医学研究科出身で将来の日本の生命科学研究を担う人材を育ててみたい、と言う気持ちが強くあります。
  3. 三番目が私自身の研究の今後の展開を考えてのことです。現在、私の部門の研究は神経システムレベルの生理学を中軸に置きつつも分子生物学、計算論的神経科学、工学、さらには臨床医学との連携が益々強まりつつあります。そういう状況では、京都大学のような総合大学の医学部というのは大変魅力的です。そして今回の異動に際してとても良い条件を提示していただけたのは嬉しくもあり光栄なことでした。私の今後の展開を京都大学の神経科学の今後を重ね合わせて考えたとき、「多少リスクはあってもこれは移って新しい展開を目指すべきだ」という判断になりました。私も定年まであと10年余りですが、新しい出会いが新しい展開につながることを期待してもうひと頑張りしたいと思っています。

実際に京都大学の教授会で決定がなされたのが7月末でしたので、2ヶ月という短期間で異動したことになります。実際には、これまで揃えてきた現在のラボの膨大な量の機材と20名余りのメンバーが全て引越しできるのは来年度に入ってからと思っています。現在は岡崎と京都を行き来しながら、色々な準備を進めているところです。その間、ご迷惑をお掛けしているのも関わらず、生理研には寛大かつ格段の配慮をしていただき、とても感謝しています。

あと、昨年来の出来事として特筆すべき事、京都大学の脳外科から受託大学院生として来ていた澤田真寛君の論文をScience誌に発表できたことです。これは直接指導にあたっていた西村准教授と澤田君の粘り勝ちということだと思います。これまでの経験に照らして、今回の論文も投稿時、既にある種の確信がありましたし、実際に査読者のコメント全て好意的でした。やはり、「通るときは通る。通ればよいな、では通らない。」ということの確信をさらに強く感じた次第です。
それと関連して、西村准教授が日本学術振興会賞を受賞したのも最近の大きなニュースです。今後、これを弾みにして一層の展開を期待したいと思います。
また、年明け早々、名古屋市立大学の飛田先生、石田先生との共同研究論文がJ Neurosciに発表され、その中身がリハビリによる機能回復について、皮質―赤核路の軸索新生との因果関係を証明するものであったことから、プレス発表の内容に多くの報道機関に興味をもっていただき、朝日新聞の一面を含め、当初の予想を超えて広く取り上げていただけたことには驚きました。実際、この論文はscientificにも相当徹底的に詰めた論文で、私たち自身にとっても満足度の高い仕事に仕上がったものです。それが一般にも評価されたのは嬉しいことでした。発表して早々に関連分野の研究者からメールをいただき、そこに“It truly sets a new standard of excellence for stroke recovery literature.”と書かれていたのはまさに我が意を得たりという気がしました。
平成28年は激動の年になるのかと思いますが、しっかり足場を固めて着実に仕事を進めて行きたいと思います。




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 伊佐 正 教授 
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