2016年5月 伊佐 正 |
“近況” 6月中旬からのラボと自宅の引越しに向けて、京大のフロアの工事も大詰めを迎えてきて、落ち着かない毎日だ。京都と岡崎を頻繁に行き来する毎日もあと1月余りかなと思う。一方で、この間、国際脳研究機構(IBRO)関係の用事でアジアの2カ国を訪れた。 3月20−22日はクアラルンプールに、マレーシアの神経科学関係の人たちのadvocacy関係の会議に招待された。Advocacyとは、「社会の理解・サポートを得るための活動」を意味する。近年IBROでは、各国が連携して脳科学研究の理解を増進するためのGlobal advocacyの活動に力を入れている。昨年2月にインドのムンバイで、アジア地域のglobal advocacyに関する会議が行われ、私はIBROのアジア・太平洋地域の委員長である田中啓治先生(理研)と一緒に参加し、約10カ国の代表者の前で日本の活動について紹介をさせていただいた。そこでは、高齢化社会を迎える日本における脳科学の振興の重要を行政担当者に理解してもらうためのcoherent voiceを構築する目的で脳科学関連学会連合(Union of Neuroscience Societies in Japan)を作ったこと。一方でいかに予算が無い中でお互いに助けあうか、ということ(包括脳支援ネットワークのような組織)を中心に話した。この話がアジアの各国の人たちに結構「受けて」しまったようで、その関係で、今回はマレーシアの皆の前で話してくれという按配になった。(他の一部の国の人たちはそういう場で「うちはこんなにお金持ちになってこんなに凄い研究所を造った」などという話をしていたが、そういうのはこういう国際的な場面ではあまりスマートとは見てもらえないのだと思う) 打ち上げの夕食会で皆さんと。多種多様な民族国家であることが一目でわかる。 次に、5月2−9日にIBROのneuroscience school(http://nrciran.sbmu.ac.ir/)の講師としてイランの首都テヘランに招待された。めったにないチャンスなので妻と2人で行かせてもらった。20数名の大学院生や若手研究者(半数はイラン国内、残り半数はパキスタン、インド、中国などの他のアジア地域)を対象に講義と実習を行うものだ。私は2回、講演を行い、実習コースのまとめの会に参加してコメントするとともに、テヘラン市内の多数の神経科学関連の研究室を訪問させてもらった。イランは核開発による経済制裁が解除され、経済発展が加速しつつある。私の滞在中にも韓国の朴大統領が300名の随行者を伴って訪問しているなど、各国が新しい巨大な市場を巡って競ってイランとの関係を結ぼうとしている状況である。イランの神経科学は知る人ぞ知る、ということになるが日本の神経科学と大変縁が深い。1993年の京都で開催されたIBRO CongressにSaeed Semnanian先生他30数名のイラン人研究者が参加し、それをきっかけとして伊藤正男先生をはじめとする多くの日本の研究者との交流が始まった。現在も毎年の日本神経科学大会には2名のtravel award枠がイランのために用意されている。実際に理研をはじめとする日本の複数の研究機関に多くのイラン人研究者が留学し、帰国して研究を行っている。イランの神経科学研究の特徴は「基礎科学を大変大切にしている」ことだ。他の多くのアジア地域の国は分子神経科学か疾患研究またはトランスレーショナルリサーチ一辺倒といっても過言ではない中で、システム神経科学や認知神経科学、またイオンチャネルの生理学などを生真面目にやっている研究者が多く、さらにそこに非常に多くの若者が集まっていることには目を見張らせられる。特に女性研究者が多いのも特筆すべきことだ。いろいろな機器の輸入がままならず、実験用のプログラムなどを手作りしているのも親近感が湧いた。テヘランだけでなく、シーラーズにも訪れてそこの研究者との交流(世界遺産のペルセポリスにも案内してもらえて素晴らしかったが)するなど、とてもタイトなスケジュールだったが、とても有意義な毎日だった。また行ってみたい。 Shahid Beheshti大学のNeuroscience Research Centerの前で。 Tarbiat Modares大学の神経科学グループの皆さんと。左から2番目がSaeed Semnanian先生。 いずれの国も一言で言うと「若い人が多くて元気」だ。私も「とても元気をもらえた」気分がしている。
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伊佐 正 教授 | |
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